医療と社会
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健康状態の自己評価に関する研究
国民生活基礎調査を用いた分析
本多 智佳大日 康史
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2002 年 11 巻 3 号 p. 19-32

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抄録
本稿ではCutler and Richardson(1997)やGroot(2000)と同じ分析枠組みを日本でも適用し,そのうえで独自の考察を深めた。まず第一に個人の効用の割り当てについてである。先行研究では,健康状態の自己評価を最高の「よい」と評価している個人の効用は理想的な健康状態を意味する1が,「よくない」と最低の評価をしている個人の効用をもっとも好ましくない状態の効用である0が割り当てられている。しかし,「よい」という評価をした個人の集団にも分布が考えられ,効用が必ずしも1であるとは考えられないし,最悪の評価をした個人すべてが0であるとするのは,各評価の集団の分布を無視するものである。なぜなら,効用は理論上0から1の間で示されるべきであり,最高および最低の評価をした人間を排除することは明らかに恣意的な割り当てである。本稿ではそれをより自然な尺度, すなわちすべての回答者中最高であるものの効用が1 , 最低の評価者の効用がOとなるように改める方法を提示した。第二に,主観的評価には不可避である個人間の分散の不均一性に対して頑健な推定法を用いた。第三に,平成4,7,10年の3度のデータを解析することによってQOLの経年的な変化を捉えている。推定結果から,いくつかの自覚症状,疾患によって主観的な健康評価が上がる現象が見いだされた。これは先行研究ではみいだされていない。また,6年間の変化では,係数はほぼ安定的であるが,QOLへの影響が低くなっている自覚症状・疾病がやや多い反面,高くなっている自覚症状・疾病はほとんどない。日本全体のマクロのQOLもほぼ安定しており,顕著な傾向はみられない。
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