本稿では戦後の日本の医薬品産業について,その歴史,公共政策,産業の3者の関係について事例分析の手法によって概観した。日本における医薬品産業は1990年代の医薬品支出額,医薬品生産額,研究開発投資額がいずれも停滞し,市場,技術,規制の変化への対応が困難になっている。その原因の1つは,日本の公共政策の失敗であり,1970年代までに医薬品産業を保護育成することに成功した後に,より研究開発志向型の公共政策を導入することが遅れたことである。企業も研究指向の医薬品企業への転換が遅れた。現在,政府が強調している技術政策の効果は限定的であり,また企業のM&Aの可能性も小さい。医薬品産業が国際競争力を持つには薬価政策を見直して,画期的な医薬品に対する薬価の上昇を認め,さらに医薬品支出額の増加も許容するような大きな政策変更が必要になる。このとき,国民は医療費増大を認めるか,それをどのように負担するかという政治的選択を行う必要がある。