抄録
わが国の近年の医療制度改革の動向,さらには今後の方向性を考察するに当たって,OECD諸国の経験は参考になる点が多い。福祉国家の類型論としては,Esping-Andersenのそれが有名であるが,医療制度に関しては必ずしも説得的とは思われない。本稿においては,イギリスとアメリカを両極とする座標軸上に各国を位置付ける試みを行っている。各国の90年代以降の医療制度改革の方向としては,「擬似的市場メカニズム」導入論が主流であるが,これとは異なる競争抑制的な方向性をとっている国もある。前者の代表的な事例としては,オランダを,また,後者の事例としてはカナダをあげることができる。
カナダについては,2002年2月に公表された検討委員会の中間報告が参考になる。カナダの医療制度に関する現行法上の5原則は,わが国とおおむね共通する考え方であると思われる。カナダ側にとっては,わが国の介護保険が参考になるのに対し,わが国にとっては,特に市町村国保制度のあり方を考えるに当たって,カナダの州単位の地域医療保険制度が参考になるものと考えられる。オランダについては,いわゆるデッカー改革の頓挫の後,2001年7月に政府から議会に提出された政策ペーパーが参考になる。
オランダは,社会保険方式をとっている国の中では,最も民間保険のウェイトが高い国であるが,「擬似的市場メカニズム」のさらなる機能強化とともに,必須医療サービスに限定した国民皆保険体制の達成を目指そうとしていることが注目される。