抄録
老人保健制度による保険者間の財政調整の影響額を,北海道の市町村国保を例に経年的に分析し,人口動向に基づき1995年および2000年の状況を予測した。加入者按分率引き上げによるプラス影響は,老人医療費全体に対する医療費拠出金の割合が1984年の73.6%が1991年には47.9%に低下したことに示されるように着実に拡大してきた。「老人1人幽たり医療費が全国平均の1,5倍を超過した場合は財政調整の対象外とする」ことによるマイナス影響は,保険者の医療費適正化努力の効果もあり比較的安定した推移を示しており,将来的にも市町村国保の圧迫要因になるとは考えにくい。反面「当該保険者の老人加入率が20%を越えた場合は拠出金算定にあたっては20%でうちどめにされる」ことによるマイナス影響は,市町村国保加入者の急激な高齢化により近年急激に拡大しており,西暦2000年には,加入者按分率によるプラス影響のかなりの部分を帳消しにするほどになることが予想される。今回の分析は,老人保健制度が市町村国保の老人医療費の重圧を大いに軽減してきたことを示したが,法制定時に挿入された老人加入率の20%の上限が市町村国保の圧迫要因として浮上しっっあり,その影響は今後急激に拡大することが予想される。20%上限は純然たる政治的妥協の産物で合理的根拠は全くなく,撤廃かもしくは現在の拠出金制度の抜本的見直しの必要性が強く示唆された。