抄録
1994年8月,国際エイズ会議が横浜で開催された。その前後2回「エイズに関する横浜市民意識調査」をわれわれは実施した。この論文は,その2つのアンケート調査の結果にみられる横浜市民特に高齢者のエイズに関する知識や意識・態度の現状から,エイズとともに生きる“共生意識や態度”の形成課題に,つぎのような議論と順序で接近したものである。1)市民はエイズの問題を自分の問題として捉えているのか。2)エイズ感染予防のための,市民の正しい“知識”とはどういうものだろうか。3)エイズに感染した時,どのように生きられる意識を市民は形成してきているのか。4)患者・感染者と一緒に生きる意識・態度はどのように形成されてきているのか,一層の形成にはどんな課題があるのか。
2回のアンケート調査の比較や年齢階層と職業階層の比較検討から,つぎのような仮説を導き出してみた。(1)これまでのエイズに関する啓蒙活動は,エイズの爆発的な感染の心配からエイズ予防のための知識・情報の提供に熱心のあまり,予防のための“技術論”に偏りがちであった。そのことから,自分を“リスクグループ”だと考えていない高齢者や主婦層の関心に知識・情報の内容や形態になっていなかったのではないか,(2)エイズ予防のための市民の正しい知識とは“医学的専門知識”を単に身につけるということではない。普通の市民生活ではエイズはうつらないという確信がもてる知識と難病に苦しんでいる人々にどのように対応することが人間的であるのかという価値意識とで合成された“生活意識”とでも呼ばれるようなものが,それであろう。(3)エイズとともに生きる“社会”の実現には,若者にも高齢者にも,主婦にも学生にもというように,それぞれの社会層に乗り越えなければならない課題があった。それぞれの課題にフィットした啓蒙活動が,いま強く求められているように思われる。