わが国には未だ医療部門の価格指導(デフレータ)は無い。そこで本論では厚生省の社会医療調査を用いて1959年から1993年までの長期にわたる医療部門のデフレータの推計を行う。価格指数はラスパイレスとパーシエを求めフィッシャーの方式で推計した。
その推計結果の有効性を明らかにするためGDPデフレータとの単純回帰式をもとめ,高い適合度でそれを確認した。価格指導は入院と入院外とでも推計される。推計した価格指数はGDPデフレータ等にくらべ高い上昇率を示しているので,その原因分析を行った。
この医療デフレータを用い実質医療費べースでの分析を行った。従来行われていた名目医療ベースでの分析では不明の医療費構造を明確にした。
また,1人当り実質医療費を医療需要量とし,医療需要の分析を行った。識別の問題などの検討も行っている。医療需要を説明するのに伝統的需要分析の理論にそい,1人当り実質家計可処分所得,相対価格を基本変数とした。所得弾力性と価格弾力性は0.55と-0.32であった。これは米国の先行研究とほぼ同じ値である。また,医師誘導需要の効果を推計し,高齢化のもたらす効果も明らかとした。
最後に,有病率と受療率とを用いた医療需要の分析をも試みている。