医療と社会
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医療費の決定構造と地域格差
国民健康保険医療費・老人医療費の実証分析
印南 一路
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1997 年 7 巻 3 号 p. 53-82

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抄録

一人当たり医療費には地域格差が存在するが,既存の医療費に関する研究は,県レベルでのデータを用いるものが多いため,地域格差の要因や医療費の決定構造は現在に至るまで明らかになっていない。
本研究は,日本全国3,251市町村の市町村別の国民健康保険(一般・退職者・老人)医療費データおよび医療福祉サービスデータ,地域特性データを用いて,全国市町村をカテゴリー化し医療費の高低を比較するとともに,総合的な医療費の要因構造モデルを構築し,さまざまな要因が医療費に与える影響と要因間の影響を定量的に測定した。その結果,地域医療費のバラツキの約半分がモデルによって説明され,次のようなことが明らかになった。
(1) 全国市町村は,医療福祉供給サービスの充実度によって,病院充実型地域,福祉・診療所充実型地域,平均的地域の3つに分類され,病院充実型地域で全医療費が高く,福祉・診療所充実型地域で,一般の医療費が高く退職者・老人医療費が低い。
(2) 同様に,全国市町村は,人口密度・世帯構成・経済などの地域特性によって,都市型地域,過疎地域,平均的な住宅地域の3つに分けられる。都市型地域では,老人・退職者医療費が高く,一般医療費は極めて低い。過疎地域では,一般医療費が極めて高い。平均的な住宅地では,核家族率・老人単独世帯率の高い地域で医療費が高く,2世帯同居型地域で医療費が低い。
(3)病院サービスが充実していると,入院費割合が高く,一人当たり医療費も高い。
(4)一人当たり特別養護老人ホーム数が多いと,直接的に,また入院費割合の増加を通じて間接的に,退職者・老人医療費が高くなる。老人保健施設は,直接的には医療費を押し上げるが,入院費の割合は減少させる。ショートステイ利用人数が多いと,直接・間接的に退職者・老人医療費を下げる効果があるが,デイサービスは医療費を上げる効果が認められた。
(5)市町村の年齢構成,世帯構成,経済等の地域特性は,市町村の医療福祉サービス供給体制を介して,間接的に一人当たりの医療費に影響を及ぼすとともに,直接医療費に影響している。これまで市町村医療費の偏りは,主として老齢人口の偏りによって説明されてきた。しかし,本研究は,医療費の地域格差がより多数の原因から構成されていること,原因間には相互に複雑な関係があること,これらの関係の相対的比重に違いがあることを明確にした。

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