医療と社会
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不確実な状況における患者の病院選択行動の経済分析
中島 孝子
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1998 年 8 巻 3 号 p. 39-51

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抄録

日本の医療は, しばしば「3待って3分間しか診療してもらえな」と批判される。これは,主に大病院で観察される現象である。長時間待つことが予想されるにもかかわらず,患者はなぜ,多くの医療機関の中から大病院を選択するのだろうか。
第一に,医療保険制度の存在により医療需要がもともと多いことが指摘できる。一般に医療保険があると,ないときに比べて医療サービスに対する需要は高まる(中西他,1991)。第二に,情報が供給側に偏在していることが挙げられる。一番目に,通常,患者は医師ほど医学的知識を持たない。二番目に,小規模の医療機関と大病院が緊密に連携していない可能性がある。三番目に,ある特定の医師の能力の高低を,患者は正確に評価できない。患者が大病院を志向する理由として,上のような不確実性の存在が挙げられる。つまり,患者は,設備やスタッフの充実した大病院に行くことで,これらの不確実性に対して一種の「保険」をかけているとみることができる。
本論文の目的は,以上の状況を単純なモデルによって説明することである。
モデルでは,患者が直面する不確実性は,病気の重症化の可能性の程度と,小規模医療機関がとる行動に由来すると単純化する。結果として,これらの不確実性のために,患者は長時間待つにもかかわらず大病院へ行くことを選ぶ。その傾向は,病気の可能性が高いほど,金銭的なベネフィットを重視する小規模医療機関の割合が大きいほど強くなる。逆に,大病院での待ち時間が長くなると,小規模医療機関を選択するようになる。また,重症化の可能性が小さいタイプにおける重症化の確率が大きくなると,患者は大病院を選択する傾向を強めるが,重症化の可能性が大きいタイプにおける重症化の確率が,患者の行動に与える影響は一定ではない。

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