医療と社会
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医薬品価格と需要の実証研究:
循環器官用薬における薬価低下政策の影響
姉川 知史
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1999 年 9 巻 2 号 p. 1-17

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抄録

この研究は医薬品需要の決定要因を循環器官用薬の個別データを用いて分析した.患者負担と保険給付額の基準となる「薬価」,卸業者の納入価格である「市場販売価格」の双方を需要量の決定要因として重視し,それぞれの効果を推定する理論モデルと推定方法を提示した。実証研究結果は相互に整合的で,しかも実務上の経験的事実を適切に説明することが判明した。とりわけ,市場販売価格に対する医薬品需要の弾力性は全サンプルにおいては-0.864であり,部分サンプルではこれが-0,6から-1.1の範囲で推定され,市場販売価格低下に対して需要量が増加するという傾向が確認された。他方,薬価低下そのものに対しては医薬品需要は影響されない場合が一般的であった。また,1992年以降,需要量は市場販売価格により弾力的になった。医薬品発売後経過年数の長い医薬品ほどその需要量は市場販売価格に対して弾力的であった.さらに,市場販売価格以外の個別医薬品の属性にもとつく個別効果が需要量変動に果たす役割の大きさが示された。
以上の実証研究によって薬価基準制度,薬価低下政策に対して次の評価が可能となった。その第1は薬価だけでなく,市場販売価格の効果を重視して政策を運営すべきという点である。第2は現行制度では個別の医薬品の価格弾力性が異なるため,その相違を考慮した薬価低下政策が不可欠であるという点である。第3は薬価や医薬品価格を重視した需要抑制政策を実施しても,実際の需要量は個別効果によって大きく影響されるため,価格規制によっては需要抑制という政策目的は実現できないということである。このとき個別効果に応じて需要量を抑制する方法,例えば何らかの「需要管理」が効果的である。
他方,製薬企業は薬価低下政策に対して,市場販売価格低下と個別効果による需要量増加で対応したと解釈される。

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