抄録
本研究は、複数年にわたる親の語りから、学齢期ダウン症児1名におけるエンゲージメントの循環プロセスを可視化し、その意味を検討することを目的とした。誕生から小学3年生までの循環プロセスをTEM図で可視化したところ、第1期は、将来を見据えて、子どもの目前にあらゆる選択肢が広がるように最大限備える時期であり、子どもがエンゲージメントの基盤を入念に準備する時期であった。第2期は、子どもが意志を貫くことを尊重し、動物研究と神楽研究へのエンゲージメントと、その産物としての研究活動の日常化を促進することを期待する時期であり、子どもがいくつかに焦点を絞って夢中を追求する時期であった。第3期は、子どもが各研究に工夫を添えるためのエンゲージメントを後押しし、専門家に届ける価値を共有する時期であり、子どもが追求し続けてきた夢中を表現・発信して拓く時期であった。以上から、エンゲージメントには、子どもにとって、地域コミュニティの中での豊富な経験を通した世界や社会の広がりを獲得し、将来の明確な自己像の描出につながる意味があるのではないかと推察される。