抄録
本研究では、ナラティブレビューを通じて、知的障害(ID)児者における病因の違いを考慮し、認知的共感と情動的共感の特徴を探索的に検討した。先行研究の整理を通じて、ID 児者は全体として情動的共感には大きな制約がみられない一方で、認知的共感においては他者の心的状態を推測する複雑さや課題形式に応じて困難さが顕在化する傾向があることが示された。特に、心の理論課題を用いた研究では、知的発達水準や言語能力、非言語性の認知能力の個人差に加え、ダウン症、脆弱X 症候群、ウィリアムズ症候群など病因ごとの特性が認知的共感の成績に影響を及ぼす可能性が示唆された。一方、保護者評定や生理・行動指標による評価からは、ID 児者における情動的共感の初期発達は定型発達児者と大きな差異がない可能性が示唆された。本レビューを通じて、ID 児者の社会的適応の理解と支援の基盤として、認知的共感ならびに情動的共感の構成要素に着目した検討を行う必要性を示した。加えて、共感に関わる個々の事例や類型を明らかにすること、そして発達過程を踏まえた検討を行うことといった今後の研究課題と、認知的共感ならびに情動的共感の特徴を考慮した支援の大切さといった臨床的示唆があった。