抄録
本研究では、日本および海外の文献を対象に、乳幼児期における嗅覚の役割とその短期的・長期的な影響を体系的に整理し、嗅覚の育成の重要性を明らかにすることを目的とする。さらに、非認知能力の形成に寄与する可能性を検討し、今後の保育実践に役立つ知見を導き出すことを目指す。2018年以降の日本および海外の先行研究60本を対象とし、嗅覚の重要性およびその影響に関する記述から共通用語を抽出した。抽出用語は、①身体的影響、②心理的影響、③対人的影響、④その他の影響に分類した。その結果、嗅覚は母子の絆の形成や授乳行動、情緒の安定、社会的関係の構築、記憶や学習に至るまで、多様な影響を与えることが明らかとなった。さらに、嗅覚は社会性や共感性、情動調整力といった非認知能力の形成にも寄与する可能性が示唆された。こうした知見は、保育・教育の現場において、嗅覚を意図的に取り入れた実践の重要性を示すものであり、今後は、文化的背景や発達を踏まえた評価方法の開発と実践研究のさらなる充実が求められる。