抄録
最近の医療事故関係紛争で医師会段階で処理されるものの中には, 看護婦など(時には医師自身)の冒す単純ミスが依然として少なくない一方, かなり高度, 複雑な医学事情に関するもの(例えば未熟網膜症, 植物人間問題)まであり, 事故に対する患者側の考え方の広範囲にわたる厳しさがうかがえる. 裁判の場にもそうした事情が反映してか, 法律家側での複雑な医学事情に対する理解への努力もみられる反面, 療養指導, 施術後の患者管理, チーム医療体制など広義の“医療のあるべき姿”を問題とする傾向も高まりつつある. そこには多分に倫理的要素もあるとはいえ, 医師, 看護婦の基本的教育の問題としても, 注意を要するものがある. なお, 法実務的に患者救済とか無過失責任追求という理念も高まりつつある折柄, 医療側として, 特別医事審判制度, 医療事故補償制度などへの今後の積極的発言もなされるべきであろう.