抄録
我々は最近比較的希な非特異性多発性小腸潰瘍の1症例を経験したので報告する. 患者は36才の女性. 18年前から全身倦怠感, 貧血, 浮腫を認め2ヵ所の病院で治療を受けたが, 少々症状が軽減するのみであるため, 本院受診した. 入院後検査所見で, 著明な貧血, 低蛋白血症, 便潜血強陽性を認め, 消化管のX線検査で下部小腸に多数の潰瘍と憩室を認めた. そこで非特異性多発性小腸潰瘍の診断のもとに盲腸約10cmと回腸約150cm切除した. 切除標本では, 15カ所に輪走斜走する浅い潰瘍があり, またその周辺に25ヵ所の偽憩室を認めた. 病理組織では, 腸結核やCrohn病にみられる所見は認められず, 特殊性炎を思わせる所見は認められなかつた. 術後経過は良好で, 術後小腸造影にて潰瘍を認めず, 術後第13週目に退院した. 本症は諸家の報告にあるように再発しやすい疾患であるため, 今後十分に経過観察していきたいと思つている.