膀胱腫瘍(移行上皮癌)の脳転移は比較的希であるが, 著者らは興味ある経過をたどつた1症例を経験し, 剖検する機会をえたので, 若干の文献的考察を加えて報告する.
症例は49才男子, 計算力低下, 頭痛で発症し, 4回にわたる開頭術により転移性腫瘍を強く疑いながらも, 胸部レ線写, 全身R. Iスキヤン, 静脈性腎盂撮影, 胃透視・内視鏡検査, 耳鼻科, 泌尿器科的検査を施行しても, 原発巣を確認することができなかつた. また手術に,
60Co照射やPIC, MEX, FT207などの化学療法を併用したがいずれも有効と考えられず, 約1年半の経過ののち死亡した. 剖検では, 膀胱に移行上皮癌を認め, 腎, 肝, 脳に多発転移巣を認めた. 従来報告された症例はいずれも膀胱症状が先行しているのに反し本症例は脳巣症状で発症し, 血尿, 排尿痛, 排尿障害などの膀胱症状を欠き, 比較的珍しい症例と考えられた.
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