抄録
36才, 女, 主訴は悪心・嘔吐, 複視及び歩行障害. 34才時発症. 全身倦怠, 悪心・嘔吐, 吃逆で始まり胆石症と診断された. その後6回の再発, 寛解を繰り返し2年の経過の後死亡した. いずれも悪心・嘔吐が出現し, 複視, 顔面神経麻痺を伴つたが, 最後は脳神経III, IV, VI, VII, VIII, IX, の障害が, 左右差はあつたが両側に見られた. また小脳症状, 錐体路症状と共に性格変化, 知能障害, 感情鈍麻なども加わり, 大脳の局在も想定された. 解剖所見では, 大脳, 中脳, 小脳, 橋脳, 延髄の広範囲に多発性に病巣が見られた. このうち最も変化の強い場所は脳幹部であり, 大脳には小指頭大病巣が前頭, 脳梁及び後頭葉にそれぞれ1つずつ見られた. 小脳病巣は1ヵ所だつたが, 橋小脳路が障害されていた. 脊髄及び視神経には異常を認めなかつた. 脳幹部にある主病巣はいずれも境界不鮮明であつた.