抄録
症例は44歳女性, 全身倦怠感, LDH高値の精査目的で入院. 入院時一般理学所見には異常を認めなかったが, 血液検査で血小板, fibrinogen減少, FDP増加とdisseminated intravascular coagulation(DIC)所見を呈していた. 入院4日目, 脳塞栓症を発症し, 意識レベルは急激に低下した. 13日目には右下肢の動脈塞栓症を認めた. また同日左鎖骨上の腫瘤を認めたためこれを生検, 病理所見は転移性腺癌であった. 以上のことより本症例は潜伏癌によるDICにnon-bacterial thrombotic endocarditis(NBTE)が発生し, これによる心原性塞栓症を発症したものと考えられた. NBTEによる脳塞栓症の報告は多数なされているが, 本症例のごとく全身状態が保たれており, 原疾患が確診される以前に塞栓症が先行した症例についての報告は少ない. 今後心原性塞栓のリスクが乏しい患者に発症した塞栓症をみた時, 本症例のような病態も有り得る事を理解しておくべきであると考えられた.