抄録
患者の自己決定を支援し社会に信頼される良質な医療の実践には, 医療現場の倫理的問題に対応する臨床倫理委員会の体制が必要である. 臨床倫理委員会は, 研究倫理を審議するInstitutional Review Board (IRB)とは異なる組織であり, 職員の倫理教育, 院内の医療倫理規約の立案や改正, そして倫理コンサルテーションを通じて, 患者の自律を尊重し, 患者ケアの改善を目指す. わが国では, 臨床倫理を扱う倫理委員会の体制整備が不十分であり, そのためさまざまな臨床倫理上の課題に十分対応できていなかった. とくに終末期の治療方針決定については, 時に不透明性, 密室性が拭いきれず, 最近の報道にみられるような社会からの指弾をたびたび受けてきた. これが, いわゆる医療不信の流れを悪化させてきた可能性も否定できない. 今後, ますますの人口の高齢化と医療の高度化に対応して, 患者の意思を尊重しながら医学的に適切な医療を実施するため, そして社会の信頼を取り戻すために, 国立病院機構病院が主体となって, 倫理コンサルテーションの体制作りと有能な倫理相談員の育成を図っていかなければならない.