抄録
近年の医療制度改革にともない, 高齢者施設の数は年々増加している. それに従って, 急変した高齢者施設入所者の救急医療施設への搬送も増加しているが, 入院加療後, 高齢者施設への再入所に際して本人および家族の意思と施設の受け入れ状況に差異が生じているのが現状である. 今回, 高齢者施設における入所者への急変時対応の実態についてアンケートを通じて明らかにするとともに, 再入所にともなう問題点について医療ソーシャルワーカーの視点から検討した.
その結果, 高齢者施設入所者が急変した際の提携医療機関への受け入れは, 現時点では十分なものではなく, その結果本人のDNR (do not resuscitate)の意思等が十分に反映されていない事が明らかになった.
しかしながら, 他の医療機関入院後に治療・処置等で施設利用者の医療依存度が高くなり, 再入所不可能と考えられた場合でも, 病院は施設側にインフォームド・コンセントなどの十分な情報提供を行えば状態によっては再入所も十分可能であるケースが多いことが示唆された.
また, 治療・処置に関する本人の意思決定についても, 十分なインフォームド・コンセントを行うことにより, 今後より尊重される余地があると思われた. やむを得ず再入所ができない場合は, 元の入所施設と新しい入所施設の相互のソーシャルワーカーが十分に情報交換を行い, 連携していく余地が多分に残されていることも示唆された. このように, 患者の新しい生活の場の選択肢を可能な限り広げていくことが, 相互の施設のソーシャルワーカーの重要な課題の1つであることが改めて明らかとなった.