2025 年 64 巻 1 号 p. 61-69
インクジェットプリントの技術は,「インクジェット捺染」,「デジタルテキスタイル」として,テキスタイル・アパレル業界,ファッション流通に進出し,近年存在感を増している.その技術はファッションビジネスのDX(デジタルトランスフォーメーション)に重要な役割を果たす可能性が高い.しかし,この二つの単語の意味するところは,インクジェットプリンターメーカーを含む長いファッション流通の間で,共通の理解がなされているとは言い難い.本稿ではデジタルテキスタイルの広義に意味するところを現在の使用状況からまとめるとともに,日本の近代染織の中で「捺染」という言葉がどの様な染色技法に使われてきたか確認する.日本のファッションビジネスの可能性を展望する中で,インクジェット捺染を単なる技術としてではなく,日本が得意としてきた多品種の高付加価値商品を作り出してきた歴史的染色技法の,その先に位置付けることによって,日本のインクジェット捺染を他国と差別化することを提案する.