本稿は東京科学大学(旧東京工業大,2024年10月より現在の名前)のリコー次世代デジタルプリンティング技術共同研究講座で行われている,インクジェットのシミュレーション解析についての紹介である.インクジェットの原理はシンプルであるが,メディア上に着弾した液滴が乾燥する過程は,様々な要因が関係する物質輸送現象であり非常に複雑である.実験だけでなく,理論解析やシミュレーションなしには理解を深めることはできない.我々はインクジェットの吐出,蒸発,メディアへの浸透,液滴内部の流れ,インクとメディアの濡れ広がりに関する研究を行ない,2020年から2024年にかけて日本画像学会を中心に研究成果を報告してきた.本解説では2021年以降,3年間での研究成果,特にシミュレーション解析事例の紹介を行う.具体的には2022年~2024年において日本画像学会で報告した,チキソトロピー流体の吐出,インクの2滴合一,ラインヘッドによる実画像形成過程,CFRP(carbon fiber reinforced plastics)へのインク滴着弾,ノズル増粘とメニスカス揺動の解析である.