2025 年 64 巻 5 号 p. 477-485
スポーツは身体的健康の維持やコミュニティとのつながりを促進する重要な手段である.しかし,視覚障害者にとっては高強度で対人接触を伴うスポーツへの参加は困難が多く,瞬時の動作判断や空間認識が求められる場面では,従来の聴覚や触覚を用いた支援技術だけでは対応しきれないという課題がある.本解説では視覚障害者が実践的にキックボクシングを行うことを可能にする「Low Vision Boxing」の取り組みを紹介する.本研究では視覚を代替するのではなく,あえて残存視力を活用するというアプローチを採用し,LEDライトによる視覚提示を組み込んだプロトタイプを開発した.視覚障害当事者およびトレーナーとのパティシパトリーデザインのもと,11名の視覚障害者による評価を通じて,その有効性と課題を明らかにした.さらにプロトタイプを用いた定期的なトレーニングやイベントへの出展を通じて,社会実装と普及活動も積極的に展開してきた.本稿では,こうした実践を踏まえインクルーシブなスポーツ環境の実現に向けた可能性を探る.