抄録
ドイツ労働法制の核となる理念の一つに、19世紀のドイツ帝国成立までの期間、及びその後第二次大戦後に至るまで、労働者の福祉や労働運動等にきわめて大きな役割を果たしたキリスト教の影響、特にカトリック勢力の影響がある。
本稿は、19世紀初頭にドイツがナポレオン戦争により神聖ローマ帝国の桎梏から解放され、その後ドイツ革命を経てドイツ帝国成立に至るまでの動乱の時期に、ドイツにも台頭しつつあった資本主義的生産体制の中で翻弄される労働者の窮状に、カトリックを中心とするキリスト教勢力が、どのように、またいかなる契機によって関与を深め、また具体的な機能を果たしたかを、歴史的背景や政治社会の動きなどを織り込みながら検討し、キリスト教の理念が、やがて1951年の共同決定法に至るドイツ労働法の理念的基盤として確立されていく過程とその意義を検討したものである。19世紀ドイツの社会状況を踏まえながら、カトリック勢力が労働者の中に浸透していく経緯を具体的勢力の動向などを踏まえながら明らかにした。