いわゆる多角的法律関係における多数者間の取引を分析するための前提作業として、民法典において唯一多数者を想定する組合契約を素材にした。代表的な先行研究を著したドイツ人学者の所論を手がかりとして、一つの利益対立をもとにする双極-多方契約(bipolar-mehrseitiger Vertrag)と、二つ以上の利益対立をもとにする多極-多方契約(multipolar-mehrseitiger Vertrag)の対比を基軸に据えた。その観点から、まずはドイツ民法の編纂過程においてこれらの多方契約がどのように議論されたかを検討した。その結果、多方契約の固有の性格とその問題性について、またその要件特性について真摯に議論された跡がないことが確認された。立法委員会におけるこのような関心の低さは同時代の学者らの分析視点によるところが大きい。そこで用いられた「双方的(zweiseitig)契約」という概念は二つの請求権を基礎づける側(Lager)を意味していたので、結局は3人以上の側(Lager)を基本とする多極-多方契約を把握するには至らなかったのである。また組合法における議論をみても、三人以上の組合員をもつ組合を視野に入れていながら、結局は多方契約の問題を深めるには至らなかった。他にも論争となる諸課題があるのに、多方契約の問題はさらに解決が困難であるから、学問と実務の将来の課題であるとしてこれを避けたのではないか、と推察されている。