2020 年 13 巻 p. 116-134
日本の農村社会では過疎化が進み、社会学でも過疎集落の持続性をめぐる研究が活発である。一方、同じく農村社会では、ジェンダー不平等の問題も根強くあり、農村女性の地位向上を目指す議論も盛んである。そしてこれらの動きの中に農村女性起業に関する議論がみられる。それによると女性起業は、集落の持続性と女性の地位向上の両方に、同時に資する事象とされる。
これらの趨勢や主張をふまえ、本稿は次の2点に取り組む。第1に、従来の論稿を検討して、農村女性起業の限界を理解する。それら論稿からは、農村女性起業が性役割の維持・強化に与するものであること、そしてそれが是認されてもいることが分かる。限界とはこの点を指す。そこで第2に、起業論とは別の立場から、集落の持続性と農村女性の地位向上に同時に関わる要素を探索する。集落過疎化やジェンダー不平等の問題を農村女性の生活構造上のそれと措定し、定住人口論的過疎研究の知見を援用して、起業と異なる形で問題克服に与る事象を考えたい。
事例として三重県伊賀市に暮らす高齢女性の日常を取り上げて、彼女が親族や近隣女性を相手に構築した贈与と返礼のネットワークに着目する。他出者のサポートを集落存続の要件とする集落変容論の主張にしたがい、こうしたネットワークを、女性の尊厳と他出者との紐帯を顕現・強化させる契機にすえる。以上の議論から農村問題をめぐる新たな論点を提起し、議論の多様化を展望する。