理論と動態
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特集:社会調査に「巻き込まれること」から見えてくる地平
パシリとしての参与観察
つかえる部外者から、つかえない内部関係者へ
打越 正行
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2023 年 16 巻 p. 32-50

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抄録

 本稿は、パシリ(雑用係)としての参与観察の意義について考察することを目的とする。私は20年近く、広島市と沖縄で暴走族、ヤンキーの若者のパシリという立場で参与観察を実施してきた。そこで調査対象者から教わったことは、沖縄の建設業を生き抜く過程で身につけたパシリとしての生きざまであった。そこで、能力を欠いた状態(貸し)と、いつでもいつまでも社長や先輩に時間を差し出す(借り)ことによって関係がつくられていた。その関係は貸しと借りが完済されないことでつくられる贈与的な社会関係といえる。本稿では、このパシリという立場を参与観察における有効なものとして整理した。

 パシリが参与観察の有効な立場であることを論証するために、参与観察における調査者を、調査対象社会の部外者(観察者)か内部関係者(参加者)かという社会の内外の尺度となる軸と、調査対象社会で与えられた役割を果たしているか否かの貢献度の軸を交差し、そこにパシリを位置付けた。その区分によると、(1)つかえない部外者、(2.1)つかえる部外者、(2.2)つかえない内部関係者、そして(3)つかえる内部関係者の4つの立場に整理できる。社会調査において対象者とラポール(信頼関係)を築くことがめざされ、到達すべき立場とされてきたのは、つかえる部外者である。そこでは、調査対象者との利害関係は、回避、もしくは最小化し、生じてしまう借りと貸しはその場で完済すべきものであった。対照的に、つかえない内部関係者であるパシリとしての参与観察は、調査対象者との間に貸しと借りが生まれることを積極的に位置付け、また調査対象社会の生活や調査対象者の人生に巻き 込まれていくことを避けるものではない。そのような不安定な地位にあることや、社会関係(利害関係)に巻き込まれる立場であるパシリは、参与観察を行う際に有効となりえることについて論述した。

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