理論と動態
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<差別と当事者>
称揚される物語と〈自分らしさ〉の陥穽
秋風 千惠
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2011 年 4 巻 p. 96-110

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抄録

 本稿は、いわゆる重度障害者に焦点をあててインタビュー調査及び参与観察で得た結果に基づいて、彼/彼女らの意味世界を考察する。以下では、まず本稿で用いる枠組みと重度障害者を中心とした障害者運動の推移について述べた後、過去の運動がもたらした価値観と現状との狭間にできた陥穽について言及する。インペアメントが重い障害者はディスアビリティも比例して高くなりがちである。1970年代当時、劣悪な条件で生きなければならなかった重度障害者は社会のドミナントな価値観に対して過激ともいえる抵抗運動を展開していった。そして、障害者コミュニティでは徐々に「自立」というイディオムが浸透していく。自立生活運動の思想及びその具現化に至る過程で産み出され、やがて障害者、特に重度障害者に称揚されるようになっていく物語、モデル・ストーリーが形成された。重度の障害があっても施設を出て、地域に暮らすというものである。また、運動を通して社会と関わるなかで、管理を嫌う障害者を標榜する言葉として「自分らしく」というイディオムが障害者の間に膾炙されていった。障害者の状況が大きく変化してきた現在におけるモデル・ストーリーの意味、また人間関係の函数を表す「自分らしく」が形骸化し当事者にとってある種の陥穽になっているのではないかという点を指摘する。

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