2015 年 8 巻 p. 55-73
これまで社会学における野宿者研究は、障害という視点を中心に据えて分析してこなかった。一方、野宿者支援の現場では、本格的に当事者の障害に着目し始めている。そこで本稿は、社会学と現場の互酬的な関係性を意識しつつ、障害をかかえた野宿者への支援という社会的実践に伴う二つの困難を、障害学の知見を援用しながら研究史の文脈で指摘した。一つ目は、認定をめぐる困難である。従来の社会学的野宿者研究は野宿者に対する選別を権力作用と見做してきたが、一方でカテゴリー化を行う者の逡巡を見逃してきた。二つ目は、障害・病者であることを打ち出し、健常者社会を批判する実践に伴う困難である。従来の社会学的野宿者研究はこの異化の実践を抵抗とみなしてきたが、一方で、抵抗それ自体を優先させてしまうことによる陥穽が見落とされてきた。
脱路上を見据えたうえでの障害認定は権力として批判されかねず、また路上における抵抗論からすれば戦線離脱であるかのように映る地域生活への移行の姿に、違った意味を見出すことは可能だろうか。本稿は、知的・精神障害をかかえる1人の男性がさまざまな他者と出会う中で、脱路上までの間にどのような存在として位置づけられていくのかを考察する。