ボランティア学研究
Online ISSN : 2434-1851
Print ISSN : 1345-9511
学校はHIV/AIDSの「社会的ワクチン」になりうるか
-ケニア農村部における若年女性の事例-
小川 未空
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ジャーナル オープンアクセス

2018 年 18 巻 p. 85-97

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抄録

 本研究の目的は、HIV/AIDSに抗する学校の可能性と限界について、ケニア農村部の若年女性の個別事例から検討することである。近年、学校はHIV/AIDSに抗する「社会的ワクチン」として期待され、保険医療分野からも学校教育の拡充が重要だとされている。しかし、学校教育それ自体は必ずしも個人の行動変容を促すわけではなく、当事者の個別性を踏まえた検討が重要となっている。3か月の現地調査では、妊娠に至った若年女性へのインタビューと学校での参与観察を実施し、学校と性的行動に関する事例を収集した。調査の結果、妊娠とHIV感染のリスクは、いずれも守られない性行為によって生じるものであるが、そのリスクの程度は男女関係の種類によって大きく異なっていた。中等学校では、男女交際が禁止されているものの、同世代同士の恋愛はある程度黙認されており、男女ともに禁欲や避妊に関する指導を日常的に受けることでHIV感染のリスクは抑制されていた。一方で、金銭などの取得を主目的とした学校外の男女関係は、そのHIV感染リスクの高さからも生徒が従うべき規範からの大きな逸脱であり、強い否定と厳しい叱責の対象となった。しかし一部の若年女性は、金銭的事情などで、許されない関係を秘密裏に継続せざるを得ず、生徒であることが予防行動を阻む一因ともなっていた。

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2018 国際ボランティア学会
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