2020 年 20 巻 p. 55-66
本研究の目的は、資源をめぐる女性の主導権が世帯内でいかにして形成されていくかという点に着目することで、対女性の交渉力だけでなく、女性の資源アクセスに対して未だ多様な支援を行う余地が残されていることを示すことにある。 女性の資源アクセスをめぐる議論の多くは、夫婦間の交渉過程や意思決定をめぐる女性の主体性に着目したものが主であった。しかし、女性が資源にアクセス出来る機会が交渉以外の場面において形成される可能性や受動的に形成される可能性も捨てきれない。そこで、「世帯内主導権形成」という概念を用い、分析の射程を交渉や意思決定の場面から世帯全体に広げることで、女性の資源アクセス可能性を分析した。 分析の結果、女性が資源にアクセス出来る機会は、「交渉による主導権の獲得」、「戦略的貯蓄行為による主導権の確保」、「夫による主導権の譲歩」によって実現しうることが分かった。また、都市スラムにおける既存の相互扶助ネットワークが女性の資源アクセスに影響を及ぼす可能性が浮き彫りとなり、対女性に対するインプットだけでなく、女性を取り巻く相互扶助ネットワークをいかに維持し、強化するかが重要であることが示唆された。