抄録
本研究はスライドファスナー産業における産業発展と技術進化の過程を日米両国の代表的なメーカであるYKK社とTALON社の特許調査を通して考察したものである.具体的には,技術進化の過程で特許に二つの大きな波が存在し,第一の波はTALON社による産業発展の初期段階で,第二の波は産業が成熟期に達したYKK社によるものである.市場が成熟し技術による差別化が困難な状況下で,後発企業のYKK社が第二の波を起こした誘因を詳細に分析している.また,日米両国の顧客の事業規模などYKK社の技術開発に至る背景も調査した.分析の結果,YKK社が米国から技術導入を行い,その後日本の顧客に適合する技術開発を行ったことが第二の波の誘因であることが確認できた.製造業の国際化において市場や顧客ニーズのギャップを丁寧に掘り起こすことで,後発国側でも新たなイノベーションを創発する可能性があることが示唆される.