われわれは,三重項-ポーラロン消光(TPQ)特性の評価法として変位電流と発光強度の同時測定法(DCM-PL法)を提案している.本研究では,代表的なリン光発光材料であるtris[2-phenylpyridine]iridium(III)(Ir(ppy)3)およびbis[2-(2-pyridinyl-N)phenyl-C](acetylacetonato)iridium(III)(Ir(ppy)2(acac))を用いた発光層にDCMPL法を適用し,電子および正孔蓄積に対するTPQ速度定数を見積もった.その結果,いずれの発光層の場合も,電子よりも正孔蓄積によるTPQ速度定数の方が大きく,同じ極性の蓄積電荷で比較すると,Ir(ppy)3の方がIr(ppy)2(acac)よりもTPQを引き起こし易いことがわかった.
災害時におけるスマートフォンの役割が増す中,制限された充電環境下で長時間利用を可能とする消費電力抑制技術が求められている.本研究はこれに対し,ディスプレイの画素を空間的に間引いて表示する空間間欠表示方式と,画像を時間的に間引いて表示する時間間欠表示方式の2つを提案した.これらは人間の視覚における時間・空間分解能特性を活用することで,情報の可読性の低下を招く表示の明るさの低下を抑制する.実験の結果,空間間欠表示方式において,表示画素領域間を視覚の空間分解能の3倍程度に設定すると,表示・非表示領域が分離して視認され,知覚される明るさが増すことが確認された.時間間欠表示方式においては,非表示期間を33.3 ms以上に設定すると,表示・非表示期間が分離して視認され,知覚される明るさが増す.可読性の評価実験から,空間間欠表示方式は文字の可読性を低下させる場合があるが,空間間欠表示方式は問題がないことが確認された.
効率的な学習データの収集は,機械学習による様々なアプリケーションの実現において重要である.本研究では,物体撮影において人が感じる画像表現の良さを学習し,それに基づいて計算機が自動的に最適な撮影位置を推定する技術を開発した.その際,適切な撮影位置の推定に必要な大量の主観評価データを,オンライン実験を活用することで効率的に収集した.ここでは,クラウドベースの実験システムを構築し,オンラインでデータ収集を行うことで,広範な参加者からのデータ取得を可能とした.また,一度に複数の画像を比較評価する手法を導入し,質の高い評価データを効率的に収集可能とした.収集した主観評価データを学習データとして用い,深層学習によって人のもつ画像表現の評価モデルを学習した.さらに,この学習済みモデルに,新規な画像表現を評価させたところ,十分な精度で人の評価を予測することができ,最適な撮影位置を推定できることが確かめられた.本結果は,計算機で人が感じる画像表現の良さを推定できること,オンライン実験で質の高い評価データを収集できたことを示唆する.本論文では,大量の主観評価データを効率的に収集した手法について報告する.
ソフトウェア開発においては,開発者がソフトウェアをオープン化し,漸進的にサービスを拡充することで対価を得る「開発者中心アプローチ」が主要な選択肢の一つとなっている.これはビジネス的な意思決定よりも,開発者によるプロトタイプ開発が先行する点に特徴がある.一方でハードウェア開発に伴うマイコンボード等のビジネスにおいては,製造に関する初期コストなどの制約から同様のアプローチは困難であったが,近年,開発ボード市場においてこの「開発者中心アプローチ」が注目されている.本稿では,開発者の要求に応え,多品種・小ロットでの販売を特徴とするこのアプローチの有効性を定量的に評価する.そのために,このアプローチを積極的に実践するM5Stackと,オープンではあるが小ロット・多品種展開を重視しないArduinoの日本国内売上データを比較分析する.
イメージセンサ内で抽出した特徴量を用い,軽量なCNN-RNNモデルRaScaNetにより人物の有無を分類した.1-bitの特徴量画像で79.1%のAccuracyと99.3%のデータ削減を達成し,パラメータは31.8 kBでオンチップ実装の可能性を示した.
近年,HMDを用いた手話学習支援システムが提案されている.本研究では,手話初学者を対象としたテキスト・映像・HMD教材を使用した手話模倣実験を行い,手話の要素(手の形,位置,掌の向き,動き)の模倣の正確さの分析と,ろう者によるわかりやすさの評価を行った.実験の結果から,映像教材が最も高い模倣の正確さとわかりやすさの評価を得ていることがわかり,テキスト教材は,HMD-FT教材,映像教材に比べて動きの模倣が難しいことがわかった.