抄録
本研究では,注視点移動に関与する視覚的注意の神経機構を解明することを目的として,神経生理学的知見に基づいた視覚的注意機構の数理モデルの構築を行った.色や形といった視覚属性へのトップダウン的な注意は,視覚神経系の活動を修飾することが知られている.こうした現象に対して,Hamkerは,視覚属性への注意の修飾がV4,IT,前頭眼野,前頭前野の情報ネットワークにより生じることをモデルシミュレーションにより示した(Hamker F.H.,2004).しかしながら,Hamkerのモデルは注視の維持を想定したものであるために,視線移動が生じる際の神経機構の振る舞いを再現することができない.そこで本研究では,空間的注意の移動を統制する後頭頂葉のLIP野の神経応答を定式化してHamkerモデルに導入した.さらに,前頭前野におけるFEF(前頭眼野)が視線移動に伴う視覚的注意の固定から解放へのトリガーを担うとともに,直近の注視位置への復帰抑制の中枢になるものと仮定し,モデルの拡張を行った.提案モデルによるシミュレーションの結果,注視点移動を伴う視覚探索が可能となり,ターゲット発見率は72%に達した.また,シミュレーションにより得られたスキャンパスは,サルの視覚探索時の注視点分布と類似することが示された.