抄録
我々はピアノ演奏における熟練運動技能の背景にある運動制御の仕組みを明らかにするため研究を進めてきた.プロ及びアマチュアのピアニスト各6名に、二つの鍵盤を親指と小指で交互に打鍵してもらった。その際の上肢の運動をモーションキャプチャシステムを用いて、指の伸展および屈曲に関連する筋(総指伸筋、浅指屈筋)の活動を表面筋電図を用いて計測した。その結果、アマチュアに比べ、熟練ピアニストの方が、指よりも肘の関節運動をより多く利用して打鍵動作を行っていること、末梢部である指の筋負荷量が少ないことが明らかとなった。本研究により、熟練に伴い、脳はより近位の身体自由度を運動に動員し打鍵動作のエネルギー効率を高めていることが示唆された。