抄録
本研究では,高速度の自己運動時において,注意が誘導される領域の予測を行う数理モデルの構築を目的として,視野内の特徴点の運動方向を検出するMT野の中心周辺特性を再現する顕著性推定モデルに対して,前進・後退や回転などの大局的な運動に選択性を有するMST野の機能を拡張した.提案モデルは,MT野の各方向成分出力に対して,方向に依存した偏りを持たせた空間荷重和を得ることにより,MST野の応答を求めるものである.シミュレーションの結果,拡散運動するドットに対するMST野の基本的な応答特性が再現されることが示され,これにより,有効視野の振る舞いに類似した視覚情報処理範囲の制約が生じることが示された.また,自動車内に固定したカメラにより撮影した映像を入力として与えた結果,従来モデルと比較して,消失点近傍を中心に顕著性を有するオブジェクトの抽出が可能となり,日常生活における経験的な直感とよく一致する応答が示された.