岩手医学雑誌
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Print ISSN : 0021-3284
Case Report
腹腔鏡下手術の術前処置のグリセリン浣腸が原因で溶血尿と肛門部皮膚潰瘍を生じた1例
尾上 洋樹 竹下 亮輔江渡  恒永沢 崇幸佐藤 誠也松浦 朋彦佐藤  慧馬場  長
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2020 年 72 巻 4 号 p. 171-176

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抄録

術前処置で行われたグリセリン浣腸により溶血尿と肛門部皮膚潰瘍を生じた1例を経験した.症例は34歳の女性.卵巣嚢腫に対し腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術を予定した.術前処置として手術当日の朝に120 mlのグリセリン浣腸を施行した.1時間後,肛門の痛みと腫脹を認めた.全身麻酔導入後に尿道バルーンカテーテルを挿入すると血色素尿の流出を認めた.術中に膀胱鏡と肛門鏡を施行したが、穿孔を疑う粘膜の損傷は認めなかった.術後の血液検査でビリルビンの上昇,CTで肛門周囲の脂肪織の濃度上昇を認め,グリセリンの腸管外漏出による溶血と診断した.速やかに補液と利尿薬による治療を行ったところ腎不全に進行する事なく溶血は改善した.受傷3日後に肛門部皮膚潰瘍が生じたが,1ヵ月で治癒した.グリセリン浣腸は便秘の治療や術前処置など日常診療で広く行われている処置であるが時に重篤な合併症を引き起こす事を認識する必要がある.

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