岩手医科大学歯学雑誌
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原著
心身障害者の口腔所見
第1報: とくに精薄者最重度集団のカリエスと歯周疾患について
小川 雅之佐伯 厚夫熊谷 敦史村上 徳行上野 和之
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1985 年 10 巻 3 号 p. 188-194

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抄録

歯ブラシ, その他の清掃用具によるmechanicalな歯口清掃が齲蝕や歯周疾患の予防に重要な役割を演じていることは言うまでもない。歯口清掃は, これらブラッシングを主体とするmechanicalな方法の他, 唾液の流れ, 口唇や頬および舌の動きによる自浄作用などのnaturalな作用によっても行なわれる。我々は, 心身障害者成人集団の健康管理に従事する機会を得ているので, 今回は出生以降, mechanicalな歯口清掃や歯科治療がほとんど全く行なわれなかった精薄者最重度集団の口腔所見について, カリエスと歯周疾患を主体に検索した。

検索集団は年齢18歳から49歳までの男性25名,女性25名の計50例であり, いずれも他に基礎疾患として癲癇(てんかん), 小人症, ダウン症候群, 進行性筋萎縮症, バセドー病, 多発性骨髄腫, 全盲, 難聴, 精神分裂症, 脳水腫などを伴なっている。入園時のIQについては, 男性の2例, 女性の5例で, 鈴木一ビネ式による20~30の数値を示す例を除けば, その他はほとんど測定不能である。

カリエスについてみると, 男女とも各1例を除く全例にC1以上のカリエスがみられ, 女性で多数歯にわたるカリエスを保有する例や, C4のカリエスを保有する例が多かった。歯周疾患についてみると, 歯肉の発赤腫張はほぼ全例に認められており, 女性で中等度および高度の炎症性変化を呈する例が多かった。歯の動揺や歯槽骨の吸収についても, 女性で高度の例が多くみられた, これは単に歯垢を沈着させやすいC4のカリエスが女性で多かったことのみによるのではなく, 歯口清掃や含漱などをしないで成人に至る過程で, 女性ではホルモンによる内因が男性以上に病変の進展に関与していることによると考えられた。

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1985 岩手医科大学歯学会
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