1986 年 11 巻 3 号 p. 270-290
プロタミン(以下Pと略)とヘパリン(以下Hと略)が腫瘍血管の新生と構築におよぼす影響を形態学的に検討した。48匹のゴールデンハムスターにDMBA誘発舌腫瘍を形成後, 60mg/kg のP, H, 生食を2週間で12回皮下注射した。血管内に硫酸バリウム, 墨汁, Mercoxを注入し, microangiography, 光顕, 走査電顕などで観察した。舌扁平上皮癌が高率に発生し, 隆起型, 混合性発育型, 高分化型が多かった。P群では腫瘍血管壁からの墨汁粒子の漏出が少なく, H群では多かった。 腫瘍の血管面積率は, P群がH群と生食群に比べて有意に低値を示した。血管造影では多血管像はH群の腫瘍部にみられたが, P群と生食群にはみられなかった。新生血管芽数はP群で減少し, H群で増加した。癌胞巣周囲の血管は三層構造のドーム状を呈し, その表面を覆う毛細血管のくびれは, P群に認められた。肥満細胞は3群とも腫瘍組織内間質にはほとんどなく, 腫瘍境界部の結合組織中に比較的多くみられた。これらの結果から, 腫瘍間質における血管新生はPで阻害され, Hで促進されることが示唆された。