1989 年 14 巻 3 号 p. 224-232
糖尿病態下での矯正治療によるストレスの影響の一端を明らかにするため, 糖尿病マウスにおける脳内の3-methoxy-4-hydroxyphenylglycol(MHPG), 血糖値, そして脳内アミノ酸系神経伝達物質に及ぼす実験的歯の移動処置の影響を検討した。
実験は体重約30gのddY系雄性マウスにStreptozotocinを投与し, 糖尿病モデルを作製して行った。歯の移動は, 上顎切歯間にプラスティック片を挿入して行った。血糖値の測定は尾静脈から採血して行った。MHPGは線条体と視床下部, 脳内アミノ酸は線条体, 視床下部, 海馬, 大脳皮質について電気化学検出器付き高速液体クロマトグラフィーを用い測定した。
歯の移動処置は視床下部のMHPGレベルを糖尿病群でのみ増加させた。同様に, 血糖値においても, 糖尿病群にのみ上昇を認めた。歯の移動処置は, 正常および糖尿病群の視床下部と海馬において一部のアミノ酸系神経伝達物質レベルに影響を与えたが, その変化は脳部位により種類と方向が異なり, 一定ではなかった。線条体と大脳皮質では変化は認められなかった。
本実験の結果は歯の移動処置によるストレスの影響が, 糖尿病群においてより強く発現したことを示している。従って, 糖尿病患者に対して矯正治療を行うに際し, 一層の注意を払う必要があると思われる。