2019 年 13 巻 p. 85-96
2006 年に伊豆沼において,中国大陸原産の肉食性魚類であるカムルチーChanna argus の炭素・窒素安定同位体比を用いた食性解析をするとともに,オオクチバスMicropterus salmoides の食性との比較を行った.ベイズ推定を用いた混合モデル(Stable Isotope Analysis in R)による推定の結果,全長100mm 未満のオオクチバスは橈脚類,次いで魚類を捕食していたのに対し,カムルチー稚魚(全長56–69mm)は,主に枝角類を餌としており,魚類をほとんど餌としていないことが示唆された.これは,カムルチー稚魚にとって捕食可能な体サイズの魚類が伊豆沼にはほとんど生息していなかったためだと考えられる.全長300mm 以上のオオクチバス成魚は同じく外来生物であるアメリカザリガニProcambarus clarkii を主に捕食していた.カムルチー成魚(全長530–780mm)は,オオクチバス成魚よりも割合は低いものの,アメリカザリガニProcambarus clarkii を主要な餌としており,次いで小型雑食魚を餌として利用していた.今後,オオクチバス駆除に伴いアメリカザリガニが増加した場合,カムルチーがアメリカザリガニに一定の捕食圧を与えると考えられる.一方で,在来魚に対しても捕食圧を与える可能性があるため,本種の個体数や食性を注視する必要があるだろう.