北海道東部には外来種ウチダザリガニPacifastacus leniusculus が分布し,環形動物ではシグナルヒルミミズSathodrilus attenuatus だけが共生する.一般的にヒルミミズ類は塩分耐性が低く,釧路市街地の汽水湖である春採湖ではウチダザリガニに共生しているシグナルヒルミミズの個体数は極めて少ないことが知られている.そこで本研究では,春採湖周辺の淡水湖沼に定着したウチダザリガニについて,水域間でのシグナルヒルミミズの共生状況の調査および塩分耐性実験を行い,これらにもとづき分布拡散経路を推定し,さらに推定を補完するために史料収集および聞き取り調査も行った.釧路川茅沼地区で採集したウチダザリガニには,1 個体あたり平均で34.4 個体のシグナルヒルミミズが共生していたのに対し,春採湖の近くの鶴ヶ岱公園にある淡水環境のひょうたん池ではシグナルヒルミミズの共生は確認されなかった.塩分耐性実験では30‰と15‰の海水に入れたシグナルヒルミミズは1 時間以内に死亡し,10‰の海水に入れた個体は約4 時間後に死亡したが,5‰と0‰の海水に入れた個体は死亡しなかった.以上の結果と史料収集および聞き取り調査の結果を合わせ,次のとおりウチダザリガニの分布拡散経路を推定した.釧路市郊外からシグナルヒルミミズが共生した個体が釧路市街地の春採湖水系に最初に持ち込まれ,シグナルヒルミミズは汽水の塩分に耐えられず消失した後に,ひょうたん池に持ち込まれたと考えられる.