会計プログレス
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株式報酬費用の未費消分に関する会計処理・再考
藻利 衣恵
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2017 年 2017 巻 18 号 p. 33-48

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抄録
 従業員ストック・オプションに関する主要な現行基準では,株式報酬費用について,付与時点で,財務諸表に株式報酬費用(未費消分を含む費用全額)とその相手勘定が認識されることはない。本稿は,株式報酬費用の未費消分の処理について,現在,通説となっている会計処理(付与日に未費消残高を貸借対照表に計上しない処理)の必然性を検討している。一般的に,この問題は重要である。というのも,株式報酬費用の相手勘定の貸借対照表上の貸方区分や価額が異なれば,未費消残高の額や当期の利益額が異なるためである。また,日本の先行研究でも株式報酬費用の未費消分の会計処理に関して検討を加えているものはあるが,ここではあくまで基準設定上の議論が中心となっている。この通説の論理に焦点を当て立ち入った検討を加えている先行研究としては,藻利(2012)が挙げられるが,そこでも,その通説の議論や論拠の必然性は,検討されていない。そのため,学術的な観点からこの点を検討する必要があろう。
 このようなことから,本稿では,第2 節で藻利(2012)の内容を確認したのち,第3 節では,FASBの会計処理とその論拠自体の論理必然性((1)付与日時点のESO契約で確定的なコミットメントは本当に存在しないのか,および(2)この契約に契約会計の考え方を導入しようとした場合,資産の認識だけを議論してよいのか)について,日本の会計周辺法制や契約会計の議論を用いて検討を行っている。
 ここで,本稿の結論は,以下の通りである。株式報酬費用の未費消分に関する通説(FASB1995),すなわち,権利確定前には,完全未履行契約と契約会計に基づく確定的なコミットメントがないことを理由にオンバランスしないという論理には必然性がない(確定的なコミットメントと等質であるとも解釈可能である)。
 会計基準上の通説,ならびに,與三野(2002),野口(2004)や引地(2011)では,株式報酬費用の未費消分に関する会計処理について,資産の認識要件を満たすか否かを論拠に会計処理が導出されていた。しかし,契約会計における法的拘束力を論拠として取引を計上する場合,着目されるのは,取引の借方側(資産)ではなく,取引の貸方側(負債)である。とすれば,株式報酬費用の未費消分に関する通説の論拠(資産のみの認識要件を満たすか否かにより株式報酬費用の未費消分の会計処理を決めること)自体も必然ではなく,株式報酬費用の相手勘定(負債や資本)の認識要件も含めて包括的に検討することにより,この会計処理を導出する必要がある。
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© 2017 日本会計研究学会
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