抄録
【目的】国際的には問題とならないカビ毒でも、わが国の食習慣に関するカビ毒などは、重大な危害物質となりうる。ペニシリウム属毒素のシトリニン(Citrinin: CTN)は腎臓や卵巣に対する毒性標的性が指摘されている。本研究では、CTNの実験動物に対する毒性プロファイルを明らかにすることを目的として以下の実験を行った。【方法】予備試験として、雌BALB/cマウスにCTNを0 ppm、1.25 ppmないし7.5 ppmの濃度で10週間飲水投与し(各群15匹)、剖検時に腎臓、肝臓、卵巣、及び子宮を採取し、病理組織学的検索を実施した。本試験として、CTNの用量を予備試験の2–4倍とし、0、15、30 ppmの割合で雌BALB/cマウスに90日間飲水投与した後剖検し(各群15匹)、全身臓器の病理学的検索を実施した。【結果】予備試験では卵巣相対重量が高用量群で有意に増加し、子宮粘膜で発情期の組織像を示す個体が多い傾向が認められた。腎臓では、尿細管に明らかな組織学的変化は認められなかった。本試験では、剖検時に卵巣相対重量がCTN投与群で用量依存的に有意に増加した。子宮粘膜で発情後期の組織像を示す個体が多い傾向が認められ、更にCTN投与群で大型卵胞数の増加が認められた。腎臓では、CTN投与各群で、1例ずつに尿細管上皮の腫大が認められ、再生尿細管の発生頻度が増加傾向を示したものの、尿細管上皮のPCNA染色陽性増殖細胞率に明らかな変化は認められなかった。【考察】予備試験で極低用量のCTNによる卵巣毒性の可能性が示唆されたものの、明らかな組織学的変化は見出せなかった。より高用量での本試験において、CTNの飲水投与による卵巣に対する毒性が示唆された。一方、腎臓では対照群とCTN投与群との間に統計学的に有意な変化は見出せず、最高30 ppmの用量では腎臓標的性はないものと判断された。