抄録
本論文は,財務危機にある企業が銀行から追い貸しを受ける際に,繰延税金資産の調整を行っているか否かを検証している。検証の結果,銀行が追い貸しを行う直前期において,財務危機企業は繰延税金資産に係る評価性引当額を裁量的に減少させ,利益を増加させていることを示唆する証拠が観察されている。また,メインバンクとの関係性が強いほど,またメインバンクの自己資本比率が規制に抵触する可能性が高いほど,追い貸しと裁量的な評価性引当額の減少との関係が強くなることを観察している。これらの証拠は,銀行,とくにメインバンクが追い貸しを行う際に,貸出先企業の財務報告に影響を与えていることを示唆している。