2020 年 2020 巻 21 号 p. 80-94
管理会計の実践度を高めることは中小企業の業績向上にポジティブな影響を与えることが先行研 究によって明らかになっている。しかし,すべての中小企業において管理会計が高い水準で実践されているわけではないのはどうしてであろうか。本稿では,財務業績の実績値がアスピレーション・レベルを超えていることから中小企業経営者が財務業績の実績値に満足している,あるいは関心を持たない状態を「アスピレーションの欠如」として定義する。そして,このようなアスピレーションが欠如した中小企業では,管理会計の実践度を高めることを含む財務業績を改善するような取り組みが行われなくなることを予想する。臨床会計学アプローチによる調査にもとづき得られた483社の中小企業データを用いた実証分析の結果,経営者の財務業績に対するアスピレーションの欠如は管理会計の実践度と負に関連していることを発見した。本稿はアスピレーションの欠如という,中小企業の管理会計の実践度が高まらない新たな障壁効果に関する証拠を学術的にはじめて示した点で管理会計研究に貢献している。