2023 年 44 巻 4 号 p. 385-388
チザニジン塩酸塩を過量内服した報告はまれであり, 今回意識障害が遷延した症例を経験したので報告する。症例は既往歴にうつ病と腰痛症がある50代の男性。路上で倒れていたため救急搬送された。来院時, 意識レベルはGlasgow Coma Scale (以下, GCS) E1V1M1, 脈拍42/分, 血圧150/100mmHg。瞳孔径は両側1mmであったが, 発汗, 流涎などはなかった。所持品からチザニジン塩酸塩1mg, 52錠分の空包を見つけたため, 胃洗浄を行い, 活性炭と下剤を投与した後にICUに入室とした。来院10時間後に意識レベルはGCS E4VTM6となったため人工呼吸器から離脱し, 来院約90分前に過量服薬したことが判明した。本剤の半減期は1.5時間であるが, 今回, 服用量が多く代謝に長時間を要し意識障害が遷延し, また副交感神経が優位となることで, コリン作動性トキシドロームに類似した症状を呈したと考えられた。意識障害や有機リン中毒様症状を呈する症例では, 本剤の過量内服を念頭に置く必要がある。