抄録
本稿は、well-beingを「測定可能な状態」とみなす静態的パラダイムを批判し、学習を媒介とする生成的プロセスとして再構想する必要性を論じる。SDGsやOECDの議論においてwell-beingは重要指標として用いられているが、既存の枠組みは文化的多様性を捨象し、不可測な側面を排除する傾向を強めている。そこで本稿は、メジローの変容的学習理論、ブルデューのハビトゥス論、センとヌスバウムのケイパビリティ・アプローチを統合し、well-beingを「価値再構築」「行為可能性の拡張」「制度条件の再編」という三層の運動として捉えるモデルを提示する。また、A県B市の「ワンステップ」事業を事例に、福祉教育・ボランティア学習の場における相互的な学びと共同エージェンシーの形成を分析し、プロセスとしてのwell-beingの具体化とその限界を明らかにする。最後に、評価制度の再構築や共創文化の醸成といった制度・文化的課題を提示し、convivialityを基軸とした社会実装の可能性を論じる。