抄録
多様な価値の交錯する現代医療の営みの中で、脳死・臓器移植に対する態度は、生命に対する価値観の表明を迫られる場面の一つである。脳死・臓器移植に対する意識を手がかりとして、ケアの体験が健康観や死生観に与える影響を探りたいと考え、1994年度卒業生から1998年度卒業生までの4学年、計203名の看護学生について、実習体験を経て、脳死・臓器移職に対する態度がどのように変化したかを調査した。看護の構造・機能との因果関係にまで言及することは出来なかったが、どの学年においても、実習を経て、脳死・臓器移植に対する態度は、一貫して慎重なものへと変化する傾向が確認された。臨床経験によって医学的知識が深まるにもかかわらず、脳死を人の死とすることに戸惑いが増したことから、看護の人間観にその根源が隠されているのではないかと推測された。