生命倫理
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「生命の神聖性」と「生命の質」との対立を越えて : 生存のためのコスト
野崎 泰伸
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2005 年 15 巻 1 号 p. 202-209

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抄録
生命の価値をめぐる議論は、規範倫理学上における義務論と功利主義との対立に並行する形で、しばしば二つの陣営に分かたれ、対立してきた。一方は生命の神聖性という立場であり、他方は生命の質という立場であるとされる。しかし、この二つの対立図式は完全には重なり合わないことをまず主張する。次に、選好功利主義の立場から「人格なき生命」を「生きるに値しない生命」であると断じ、そのような生命を殺すことを正当化するピーター・シンガーの論理を批判的に検討する。けれども、功利主義のある側面は、まさに生存を守っていくためにこそ使われる可能性があり、その可能性を示唆する。そのために、アマルティア・センが行った功利主義の内在的批判を検討する。そして、生存のための必要を擁護し、生存のための有意味なコストの社会的分配を擁護する。それは、生命を選別するための負担にはつながらない。
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2005 日本生命倫理学会
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