抄録
本研究では、若年性認知症の患者とその介護にあたる配偶者・家族の苦悩が深刻であるにもかかわらず、しばしば看過されている現実を倫理的問題として提起する。そこで、配偶者の介護施設入所を経験した家族に面接調査をおこない、結果として、その苦悩の根底に、「若年性認知症の認識の欠如」があることを明らかにした。特に、他の精神疾患との誤診に伴う早期診断の遅れ、不当な入院や治療は深刻であった。また、周囲の偏見や差別、介護現場における画一的な対応は、若年性認知症の本人および介護者の生活の場を奪い、秘匿の傾向を生んでいた。経済的困窮は夫婦どちらの発症においても深刻だが、福祉制度の利用はない。一方、夫の絶望感は暴力として妻に向けられることが多く、妻は介護者・被介護者いずれの立場においても、被虐待者となりうる状況が伺えた。若年性認知症の啓発活動、多領域にわたる公的支援、家族の会などの私的支援とともに、介護者相互の積極的な連携・協力が不可欠であろう。